KG FIGHTERS 第55回ライスボウル初優勝 2002年1月3日
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コーチのコラム(守備)
Fighters-Dの肖像/堀口 直親
―風 〜不安と闘い試行錯誤を繰り返した日々―

真っ向勝負

 多くのビデオを見て、いろんな意見を参考にしながら、ようやく一つのパターンを作り上げました。しかし一つでは、百戦錬磨の社会人相手に通用するはずなどありません。その後、複数のパターンを考えましたが、心配だったのは実践する選手が理解しきれるかどうか、消化不良を起こさないかどうか、ということでした。
 何度もビデオを見ながら説明を繰り返し、選手の意見も汲み取り、そして練習。それでもTAMONという文字はあまりにも巨大でした。松下電工でプレーを続けているファイターズのOBがたくさん帰ってきてくれて、LBやDB相手に重量ランナーを演じてくれましたが、食い止めるのが精一杯。実際に、スピードに乗った中村多聞選手に真っ向勝負を挑めるのか…不安は尽きませんでした。その上で複雑怪奇なことはできないなぁ…それが本音でした。
 「作戦で止められる相手ではない」
 それまでは私に直接訴えかけてくることなどなかったLB連中が、少しずつ不安や疑問を話してくれるようになるにつれて、私から少しずつ雑念が消えていったようです。
 最終的に決めたプラン、それはあくまでも「真っ向勝負」でした。鳥内監督はTD誌にて、私が作るプランをして「超ウルトラ根性悪い作戦」と評してくれましたが、実を言えば真っ向勝負、どこをとってもK.G. Defense vs. TAMONの図式を崩したつもりはありませんでした。それは暴挙かもしれません。でも、私には自分の教え子を信じるしかないんですから。
 どうにかシステムに慣れてきた頃…平郡がまたもや浮かない顔をしていました。欠点を克服するためにまだ何か足らない、何かできるんじゃないかと言いたげな様子でした。あまり多くを語っても仕方がない、これさえできれば自信をもって臨めるはずだと暗示にでもかけてやろうか。そう思ってプレー判断をより迅速・正確に行うことと、タックルに向かうコースを身に染みつかせること、その二つだけを別途練習させてみました。そこに力哉や財満らILBたちが自然に参加してくる、OLBの星田は弟子の近藤を連れて違う角度からそのランナーにタックルしようと参加してくる、LBの練習を後ろで見ていた矢野や田尻、池谷らSafetyたちがそこに加わってくる、D-Lineは重くてタフな飲料のラインを想定したヒットの練習に集中している…練習前も、練習後も、本来なら疲れ果てているだろうし、長いシーズンで負傷もかなりあるはずなんですが、とにかくトライしてみて少しでも不安を解消したい、そんな思いが伝わってきました。
 不安を完全に消すことなどできません。試合が始まってみなければわからないこともたくさんあります。でも、自信をもって臨めるか、それとも怯えて腰が引けたまま臨むのか、そこに大きな違いがあります。
 とにかくやってみよう、と始まった練習ですが、やりながら追加・修正作業を選手と共に行いました。何か壁に当たったりわからないことが出てくると、それらを溜め込むのではなく吐き出すようになってきました。たった一つのプレーに対しても、誰もが緻密な動きを求め始めました。試合では思い切って動きたい、大胆なプレーを見せつけたい、そうなるために少しでも完璧に近づこう、そんな気持ちがうかがえるようになってきました。どこか、選手の方からこちらへ向かってきてくれているような気がしました。それは選手との意思の疎通がうまくいくようになってきたからだと思います。一時は、忘れていた・・・いや諦めかけていたこと。

「冷めてんのとちゃいますん」

 強気もいいけど正直に自分をさらけ出すことも必要。でなければ、どんな目的をもって練習メニューを作ってやればいいのかわからないままになる。その上で時間が過ぎていき、こっちは「もう問題はない」と思ってしまう。しかし本人は「やっておけばよかった」と勝負の前から後悔してしまう。そうなれば、Game PlanもAdjustmentも無意味になる。
 仲間どうしだってそう。本音を隠していても仕方がない。わからないことは「わかりません」と言えないと。
 しかし…コーチとの年齢差が開けば開くほど、本音など言い辛くなってしまうのも仕方がない、仕方がない…「しゃぁない」と諦めていた、それもまた私の本音である。何も言ってこないのなら何も応えられない。でもそういう間柄だから、どうしようもない。まるで受験に合格させるためだけにマニュアルどおりのことを黙々と黒板に書いてはマニュアルどおりのことを生徒に伝える教師と、受験のためだけに詰め込んで勉強する生徒との間柄のようだった。
 勉強することの意義や楽しさ、理解すること、自分で考えることの大切さ、面白さなんて全く伝えていない。でも「しゃぁない」と諦めていた。自分のコーチングに疑問をもちながらも、打開する方法を考えなかった。
 「冷めてんのとちゃいますん?」
 コーチの大寺にそう突っ込まれたことがある。冷めてるわけあらへんやないか…そう言い返せない自分しかなかった。
 それが大きな間違いであり、一人身勝手な思い込みであることを思い知らされた。OLBの蛸坊主・星田が、私の間違いに気づかせてくれた。話し込めばこれほどおもしろい男はいない。強気に見せてるけど僕だって不安だらけなんですよ、早く気づいてくださいよ・・・平郡が無言でそう訴えかける。不慣れなILBを務める力哉の口から、聞き飽きた「大丈夫です」が少なくなって、核心をつく質問が増えた。矢野や田尻が時間を作ってはLBの練習に加わってくる。私のことを「怖いです」とハッキリ言って距離を置いていたはずの矢野だが、ここへ来て妙に近づいてくるようになった。「当たることでしか解決できない」とNose西村はまるで催眠術にでもかけられたかのようにヒットの練習を繰り返す。「いけるか?」と尋ねれば、西村は心の中に潜む不安を表情に出す。まだ何も言えないけど言えるようにしてみせる、とばかりに。
 遠く離れていたはずの選手たちが、急に身近に感じられた。何か期待できそうな、というより、選手たちが心強い存在に思えてきた。


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