Final Count Down
後ろの方から、ファイターズを応援してくれていた人たちの声が聞こえてきました。た だ数字を叫ばれているだけなんですけど、その声は数が小さくなるにつれて大きく、強く
なっていきます。ベンチエリアの端っこ、試合開始前の整列の時に立つ位置で、スコアボ ードを見つめていました。こんな顔、現役には見せられない。イメージが崩れてしまう・・・・
崩れるような強固なイメージって俺にはないか・・・・
「ゼロッ!」
この日一番の大歓声が沸き起こりました。振り返ると、そこには茹で上がった蛸のよう になった星田がいて、スーッと寄ってきてくれました。
「やったなぁホッシー、よぉ頑張ったなぁ」
「ありがとう、ほんまありがとう・・・・」
その後は何言ったのか、星田が何言ってるのか、全くわからなくなりました。極限の興 奮状態。この男が2001年のファイターズディフェンスを引っ張ってきた、今日はプレーで
それを示してくれたんです。私にとってはこれ以上の感激はない瞬間でした。
誰彼なしに抱き合い、握手し、喜びを分かち合いました。矢野、墨が流れて幽霊みたい な顔になっとる・・・・表彰式直前、少しばかりおなかが痛み出しました。神経性のものでし
ょう。勝って気が緩んで、ズキズキときました。
鳥内監督から「ご苦労さん」と言葉をかけられ握手。小野コーチと周囲の目も気にせず 抱き合い、泣きじゃくりました。ほんま、長い長い道のりでした。
「やっと勝ったんやから・・・・」
ベンチに腰掛けてたたずんでいた。まだ少し腹が痛かった。蜂の巣を叩いたか のような大騒ぎを目の前に、こういう「乱れ方」は本当に嬉しいものだと思って
いた。青いジャージを身につけた大柄な子供がたくさんいるような、そんな感じ だった。
「何ひたってますの?」
誰かが肩を揉む。振り返ると平郡。試合前と同じような光景だった。よく考え てみれば、シーズン途中からILBに転向して、ボロボロになりかけていたディフ
ェンスを立て直した影の功労者かもしれない。ひょっとして、一番いじめたやつ かもしれない。思わずベンチを越して飛びついてしまった。
「またここへ来ましょうね。」
必ず・・・・必ず・・・・ 「あ、泣いてる、泣いてる。」
笑うな、この野郎。やっと、やっと勝ったんやから・・・・
きやすが少し気まずそうに近づいてきました。Punt Returnでミスが続出。その責任を 感じていたんでしょう。「そういうこともあるわな」と笑って忘れることにしました。矢野
がきてくれました。何を言っているのかわかりませんでした。西村はベンチに座り込み、 首を傾げていました。「どないしたん?」「いやぁ・・・・」何が言いたかったんでしょうか。
監督のインタビュー、全く聞いていませんでした。すんません、ほんますんません。
胴上げしてもらいました。宙に3回舞いました。途中で誰かを蹴飛ばしてしまったよう な気がしますが・・・・坂本でしょうか?誰かが「重すぎる」と一言。そんなはずはない、今
シーズンは体重が激減したんです。下手なダイエットより、コーチする方がすぐに痩せま すよ。ただし、あんまり身体にいい痩せ方だとは思えませんけど。
待ち望んでいた二つの瞬間でした。カウントダウンがファイターズの応援席から聞こえ てくる瞬間と、宙に舞う瞬間。
「楽しかった」
お疲れさん、と握手。疲れたやろ、と問われて、返す答えはただ、
「楽しかったですよ」
勝てたから言えるのはわかっている。負けてりゃそんなこと言えるはずがない。 でも、負けていたとしても、どこか楽しんでいたような気がする。ほんとは吐き
出しそうになるくらいしんどいこともあった。ミーティング前に居眠りしたり、 食欲がなくなったり。
それでもグラウンドに行きたくないと思ったことは一度もなかった。
現役たちも本当に苦しんだ。悩んだ。辛かったと思う。意図的に辛くあたった こともあって、自分で自分を(ほんま、意地悪やなぁ)と何度も思った。もっと
優しくしてやれないのか、暖かく接してやれよと自分に言ったり。それでも顔を 合わせれば皮肉と苦言の連発。グラウンドでは妥協せず。
ただ、選手たちは妥協など求めなかった。いくらでも厳しさを望んでいるよう だった。
だからこそ・・・・4年生やLBたちと話すたびに、誰かが必ず言う・・・・決して楽 (らく)じゃなかったけど・・・・ほんまにしんどかった・・・・止められるなんて思えへんかったけど・・・・タックルできひんかもって・・・・でも・・・・そやから余計に、
「楽しかった」
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