Big Play
ハンドチーム・・・・オンサイドキックに備えたスペシャルチームがフィールドへと出てい きました。ディフェンスは既にハーフライン付近で待機しています。ヘッドセットを通じ
てプリベントディフェンスの確認。その前のシリーズのことを考え、数種類の対応策を浮 かべていました。次にフィールドから戻ってくる時は、歓喜か、それとも落胆か。二つに
一つの大勝負。誰もが疲れ切っている時でした。しかし、私は選手たちの気力に賭けるし かないんです。ここまできたら技術でも体力でもない、すべてが気力、精神力です。
目の前を転がるボールに双方の選手が集まり山となりました。どちらにボールが・・・・女 神が訪れるか。審判が山を掻き分けていきます。心情として、おそらく選手たちはその場
からすぐには離れたくなかったと思います。唯一、ボールを確保している者を除いて。
「もろた、うちのボールや!」誰かがそう叫びました。
フィールドに目を戻しますと、4年生LB坂本がボールを高々と掲げていました。
「え、坂本・・・・ほんまかいな。」
4年間で一番手を焼いた男です。やっと役に立ちよったか・・・・でも正直言って、ホッと しました。大きくため息をついてヘッドセットを取りました。
ドームの天井って以外と明るいんやなぁ、真っ暗かと思うてた・・・・まだ終わっ てへんのやから・・・・顔、元に戻せへん。前、見られへん。まっすぐ向いたら・・・・
まだ終わってへん。まだあかん。
ゆっくりとオフェンスチームが入っていきます。
力哉、ごっつかったなぁ。あいつ、ラインよりLBの方が合うてるんとちゃうや ろか。あんなLBおったらほんまオフェンスは嫌やろなぁ。多聞、吹っ飛ばしたり、
ブロック越しに片手でランナー引っ掛けたり、Blast、差し込んで潰したり、LB ずっとやってるやつでも難しいこと、一瞬でできるようになった。あんなん、コ
ーチせんでもええもんなぁ。
星田、巧なったなぁ。ええリーダーになったし、あんなおもろいやつやったと は・・・・交わすん巧いだけちごて、ちゃんと足もとに絡みついて放しよらへん。
Power Playはほぼすべてが予定通り止められた。あれはみんな蛸のBig Play。オ フタックル走らさへんかったん、あいつのおかげや。何より、こんだけのことで
きるディフェンスにしよったんが・・・・嬉しい。
きやす、怪我して最後の方しかでられへんかったけど、キッキングも含めてよ うディフェンスをまとめてきよったな。強烈なタックルするやつになったもんな
ぁ。こいつが出てきてくれて、LBは楽になったもんなぁ。
Eat the Ball…QB尾崎が膝をつきました。
矢野、最後までパニクってしまう自分に不安がっとったなぁ。そやけど今日は なんか楽しそうにプレーしとったなぁ。最後までもたへんって、最後までよう動
いとったやないか。パス通されたんはしゃぁない、そやけど即タックルしてたし、 ボール弾き出すぶちかましも見せよった。あいつのおかげでいつも強気でサイン
出せたもんなぁ。
勘介、また脚つっとったけど、ようもったなぁ。なんか今日は余裕あったもん なぁ。強なったんやなぁ。ビール飲み続けたおかげかなぁ。最初は貧相なプレー
しかできひん、言うことぜんぜんきかへんやつやったのに、ええ勝負できるCBに なったなぁ。一番怒られとったやつかな、その分、頑張れたんかな。
アサヒ飲料がタイムアウトを取りました。ちらりとベンチを見ますと、みんな声だけは 一人前に出していました。まだ終わってへんと。でも、なんでしょうか、その頬を伝って
流れ落ちるものは。
時間、止めても、もう残らへんな・・・・残らへん、残らへん・・・・
Ready for Playのホイッスルが鳴りました。そしてEat。ベンチは既に最高潮を迎えつつ ある雰囲気でしたが、「まだ終わってへんぞ」という声。しかし、もう堪え切れませんでし
た。
「よっしゃぁぁぁぁぁ!」
両の拳を天に向かって突き上げました。溜まっていたものがすべて流れ落ちました。付 近にいる4年生たちを見るたびに、いろんなことを思い出しました。全員について語って
やりたいけど、そうすると何年もかかりそうなので、ディフェンスとして試合に出た者へ の思いだけに留めます。すべてを包括しているとお考えください。
全員で作り上げたBig Play….
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