KG FIGHTERS 第55回ライスボウル初優勝 2002年1月3日
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コーTコラム(攻撃)
THE QUARTER 〜衝撃の10分間〜/小野 宏

「オープン」の思想

  「ライスボウルに初めて勝てた」という喜びは大きかったが、さらにその感激を膨らま せていたのは、「このオフェンスは選手とともに創り上げた」という実感だった。
  16年前、留年してコーチをしていたときに、部長だった領家穣社会学部教授(当時)か ら「管理型社会はどこみてもみんな行き詰まっとる。管理する側、される側と考えるんや のうて、みんなが自分のチームのことを自分のこととして本気になって考える参画型社会 を作らなあかんのや」と酒を飲みながら何度か言われていた。「スポーツは社会の縮小され たモデルなんや」とも言われた。その問題意識はずっと頭の隅にはりついていた。
  93年にコーチに復帰して、こうした組織のあり方を目指してきたが、なかなか既存の 枠を超えられずにいた。そして、98年頃から、それまでコーチだけで練ってきた長期・ 短期の戦略や試合ごとの戦術の策定について、検討段階から思い切って選手に情報公開し、 共同作業で創り上げる方式に転換した。
  米国では、考える側(コーチ)と、プレーする側(選手)には明確すぎるほどの線が引 かれている。戦略、戦術を考え、それをプレーとして選手に教えることを仕事とするプロ のコーチ。そのコーチに教えられたことを練習し、それをスペシャリストとして試合で遂 行する選手。それぞれの領域で責任を果たすことでチームは勝つと考える。選手がコーチ の領域に入り込む権利は与えられていない。
  しかし、さまざまな環境、条件、文化が異なる日本では、少し違う方法があるようにも 感じていた。選手が成長するためには、厳しい練習にも取り組まなければならない。しか も、頂点を極めようと思えば、主体的に強い意欲と目的意識を持って長い期間にわたって 自分と向かい合うことが必要となる。「やらされている」ような状態では、成長はおぼつか ない。しかし、人間はなかなか努力が長続きしないものである。ましてや、米国のように スポーツ奨学金がもらえるわけでもなく、プロへの可能性もない日本の大学フットボール において、選手の高いモチベーションが維持される基礎条件は大きくない。では、そうし た受身の姿勢に陥らず、自分から夢中になって厳しい課題にも取り組むことができるよう になるためには、どうしたらいいか。いろいろな答えがあると思うが、そのうちの一つは、 やはりフットボール自体を「面白くて仕方がない」と感じられるようになることだ。好き、 になることこそが近道だと思う。
  そのためにも、コーチが抱え込んでいた戦略、戦術の部分にも関わり、フットボール(オ フェンス)の全体像を理解すること。さらには、そのオフェンスを構築する過程に参画す ることが、選手のcreativityを刺激し、選手にとってのフットボールの魅力を膨らませるこ とになる。
  具体例を挙げれば、対戦相手のビデオをコーチ・選手がそれぞれ見た上で、基本戦略、 プレー、ゲームプランについて断片的な情報収集の段階から全員(実際は上級生中心だが) が意見を出し合う。コーチも、検討段階からたたき台をどんどん選手に提示してしまう。 コーチがどういう点に自信を持っているか、どういう点に迷っているかも率直に説明する。 我々が検討していくことは最終的にはゲームプランのシートに収斂されていくのだが、そ の過程をすべてガラス張りの箱に入れ、誰でも見えるようにしてしまった。そして、誰で も合意の上でなら手を入れられるようにしたのだ。
  当たり前のように思われる方もいるかもしれないが、コーチの側には案外勇気のいる ことだった。コーチの頭の中をさらけ出せば、底が見えてしまう。過程を検証されれば、 戦略上の判断が成功していたか失敗していたかも選手も分かる。コーチの権威が失われる のではないか。力量不足がばれてしまうのではないか。選手からとんちんかんな意見が噴 出し、収拾がつかなくなるのではないか。選手が頭でっかちになって、プレーヤーとして の自分自身の課題から逃げてしまうのではないか。
  しかし、こうした心配は、多くが取り越し苦労だった。オープンなシステムはさまざま な効果を生んだ。フットボールの見えなかった部分の面白さと難しさを知り、トータルで フットボール(オフェンス)への理解が深まった。一つ一つのプレーをただ単純に覚える だけではなく、そのプレーが全体のプランの中でどういう位置をしめ、どういう意味を持 っているのかが分かるようになる。自分がこういうプレーが通ると思ってみんなに主張す る。問題点を指摘され、取り下げざるを得なくなる。しかし、そうした試練を超えてプラ ンの中にプレーやアイディアが採用されることが出てくると、面白さは倍増する。プレー への愛着も高まる。何よりも本当の意味での責任を感じるようになる。もちろんこうした 過程で、コーチは知識や経験を蓄積している分、議論を主導している。7割から8割方は コーチの出したたたき台を中心に進むのだが、コーチが気が付かない点も選手から多く指 摘がなされ、戦術、プレー、プランさまざまな面で、以前より実感として2割ぐらい精度 の高いものができあがるようになった。コーチと意見をかわすことで選手はフットボール の論理的思考が身についてくる。選手間のコミュニケーションも促進される。コーチと選 手にも一体感がある。このオープンなシステムが、我々の攻撃にある種の「しなやかさ」 を生み出しているように思う。
  そのことが、もっとも現れているのがラインズである。現在のフットボールでオフェン スラインほど合理的な思考、プレーの理解度、精緻な判断が求められるポジションはない。 それは、インテリアの5人、TEを含めれば6人が一つの「ユニット」になっているため だ。攻撃ラインと言えば、イメージは縁の下の力持ち、1試合を通じて対面する選手と1 対1でゴツゴツと当たっているように受け取られがちだが、実際はライン全員がこまかな 連携をとって一体となって動いている。プレーの通るべき理想の形を6人が正確に一致さ せ、コミュニケーションをとりながら、相手がしかける変化に対応してランナーの走路を 開き、QBのパスを投げるスペースを確保していく。関学のOLは神田コーチの元で、その 有機的な繋がりを「絆」とし、1×6を6ではなくユニットとして7へも8へも押し上げ て、社会人の強力なラインと互角の勝負を繰り広げた。ライスボウルでの攻撃の成果は、 その基盤の上に乗っている。


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