KG FIGHTERS 第55回ライスボウル初優勝 2002年1月3日
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コーTコラム(攻撃)
THE QUARTER 〜衝撃の10分間〜/小野 宏

"Vertical"の成功

 続くキックオフでカバーチームにビッグプレーが生まれた。野田がリターナーに背後から強烈なタックルを浴びせ、ボールが宙に浮いた。田中秀が敵陣30ヤードでリカバーした。たたみかけるには、まさに千載一遇のチャンスが訪れた。
プロ体型からのリードドローフェイクのVertical pattern。WR,TE,SEがいずれもエンドゾーンに向かってまっすぐタテのルートを走る。守備を縦横に引き伸ばす最も有効なプレーである。守る側にとって最も危険度の高いプレーといえる。おそらく飲料は、このプレーを最も警戒していたはずだ。相手が動揺し、プレーを推測しにくいターンオーバーの直後に、勝負をかけた。
 このプレーが最も効果を発揮するのはパスカバレッジが2ディープの時である。浅いゾーンを守ることに重点をおき、深いゾーンを2人で守るため、その奥のゾーンに3人のレシーバーが入り込むと理論的には誰かがフリーになる。通ればロングゲインか場合によってはTDになる。このため、飲料ディフェンスは、2ディープを敷いていて、攻撃がドロップバックからこのverticalをしてきたら、真ん中のレシーバー(プロ体型ならTE)をMLBの晋三が一目散にカバーする仕組みをとっている。しかし、この守り方は、もともとFSをしていた経験を持ち、LBとしては際立った守備範囲の広さを誇る山田晋三だからできるという面がある。晋三をドローでLOS近くにくぎ付けにしてTEを空けようとした。
 飲料はスナップされる瞬間まで完全に2ディープのルックで構えていた。そのまま2ディープをしていたら真ん中にぽっかりとゾーンが空いて榊原がそのままTDしていただろう。そのシーンをおそらく尾崎も思い描いたと思う。しかし、それは見せかけだけだった。飲料は、2ディープのようにセットしてから、2人のセイフティのうちのどちらかが浅いゾーンに上がり、両CBが下がって3ディープへと変化する。これをどちらのセイフティが上がるか、どこに上がるかで飲料守備はいろいろなバリエーションを持っている。しかもそれを巧妙に、攻撃のQBやWRたちに悟られないように展開する。我々が過去に対戦してきたどのチームよりも、多様でかつ精密なゾーンカバーを駆使することにこの守備の最大の特徴がある。ブリッツをかけて、能力の高いDBにタイト・マン・ツー・マンでカバーさせる攻撃的な守備が全盛の時代に、ほとんどマン・ツー・マンをせずに巧妙なゾーンで罠をかけ、QBを幻惑させてパス攻撃を翻弄するばかりか、インタセプトという大きな果実がころがりこんでくるのをじっと狙っている高度な守備なのだ。現に彼らはシルバースターの金岡、東野という国内最高レベルのパッシングQBから4本のインタセプトを奪っている。東京スーパーボウルを含めプレーオフ3試合で合計7本である。この網にどうかからないようにするかが攻撃にとって最大の課題だった。
 話を元に戻す。プレーが始まった瞬間、FSがフィールドの真ん中に下がりだしたのが、ヒントだった。3ディープなら早いタイミングでTEをヒットするしかない。リリースが遅れればインタセプトの危険性もある。尾崎はフェイクを短くしてTEに投げようとした。LB晋三はフェイクを見て動きを止めたが、すぐに下がり始めた。尾崎のスローイング動作が途中で一瞬止まった。しかし、次の瞬間、間髪を入れずに再び素早い投球動作が起き、MLBと2人のセイフティの間にボールがライナーで伸びた。ボールは、榊原が振り向いた先に低くリードされていた。困難なボールだった。捕球が難しいだけでなく、捕った瞬間にタックルされる恐怖を両側から感じてしまうからだ。しかし、榊原はそんなことをまったく感じさせず、倒れこむように低い重心になりながらバランスを崩さずにあっさりキャッチした。
 才能のある選手がそろった今年の攻撃陣の中でも、榊原は特殊な存在である。1年生から先発に名を連ね、重要な試合や大舞台はすべて出場し、決定的な場面で決定的なプレーを演じつづけてきた。しかし、同時に、特定の場面で榊原にプレーが集中しないように、細心の注意を払ってキーになる選手を分散させてきた。的を絞らせないことが、攻撃にとって死活的に重要だからだ。しかし、ライスボウルは最後のゲームである。さらにアサヒ飲料は継続的に我々のゲームを見ているわけではない。榊原を可能な限りすべてのプレーでキーポジションにおき、彼で勝負する――イッセイを使い切る。それが、我々にとって、最も大きな戦略の一つだった。


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